スモール出版

書籍 『中国新世代 チャイナ・ニュージェネレーション』 小山ひとみ・著
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はじめに

私が中国カルチャーを追い始めてから、23年が経つ。
長らく中国カルチャーを見てきたが、2007年のスマホ登場、2008年の北京オリンピック以降、ここ10年の変化の速さは凄まじい。ソーシャルメディア、ヒップホップ、アイドル、ファッション、ドラマ、映画、インターネットセレブ……今までの中国にはなかった新しいカルチャーがどんどん誕生している。そして、その主役は常に「ミレニアルズ」だ。彼・彼女らは、中国で初めて「自分探し」をし、「国産(MADE IN CHINA)」に誇りを持ち、海外資本の積極的な導入によって急に「全てが手に入るようになった」世代でもある。

ミレニアルズとは「1980年頃から2000年代始めに生まれた世代」の総称だ。2019年5月の時点で、中国の総人口は約13.90億人(日本の外務省HPより)。そのうちの約3割が「ミレニアル世代=ミレニアルズ」というデータも発表されている(中国国家統計局調べ)。中国のミレニアルズだけでも、なんと日本の総人口の3倍を超えている。この数字から、ミレニアルズが持つ影響力の大きさが窺える。
そして中国にとって、この世代は特別と言える。1978年が「改革開放(※)」の年だったからだ。それ以降、中国はいわゆる「現代社会」に入っていった。国民は自分の生活や人生を自分で決めなければならなくなったのだ。
中国の若者やユースカルチャーの研究者、チャン・アンディン(张安定)はその変化を「インディビジュアライゼーション(個人化)」と語っているが、それこそが改革開放後に生まれたミレニアルズの特徴だ。

この「インディビジュアライゼーション」のことを聞いて思い出したのが、私が1996年に中国に留学していたときのことだ。当時、私と同世代かちょっと上の世代から、よく言われた言葉があった。「俺(私)たち中国人は(我们中国人)」「君たち日本人は(你们日本人)」という、複数形の主語だ。彼・彼女たちは、自分のことを「個人」としてではなく、「中国に所属する人間」として語っていたのだ。そして、私のことも同様に「個人」としてではなく、「日本に所属する人間」として見ていた。

あれから20年以上の時が経ち、今、私が親しくしているミレニアルズやZ世代(90年代後半〜ゼロ年代生まれ)の若者たちが、「俺(私)たち中国人」「君たち日本人」という言い方をしているのをこれまで一度として聞いたことはない。彼らは自分のことも私のことも、一人の「個人」として見て接してくれている。国籍は違うけれど、リアルタイムで見ているドラマや映画、聴いている音楽、お気に入りのブランドなど、お互いに好きなものが似ている「個人」として話をしている感覚だ。私よりも日本のミュージシャンや芸能人に詳しい子もいるし、逆に、私が中国のアイドルやミュージシャンの話をすると「私より詳しい!」と驚かれたりする。このとき、インターネットの恩恵でボーダレスの時代になったんだということを改めて実感すると共に、これが「インディビジュアライゼーション」なのだと理解した。

1978年以降、中国は急速な発展をとげている。ミレニアルズは、その急速な発展の中で勉強し、働き、生活をしてきた。親世代と比べると圧倒的に多くの「チャンス」が出てきたのだ。そして、その「チャンス」を自分のものにしようと、「どういう生活をしたらいいか、どうしたら自分自身が安心できる生活が送れるのか」という「自分探し」を始めた。ミレニアルズの親世代は、国から与えられた仕事に就く、国が用意した生活を送るという選択肢しかなかった時代を生きてきたので、「自分探し」を経ていない。だから、親に聞いても答えは見つからない。自分の道は自分で探していくしかないのだ。

今までの中国の人々とは明らかに異なる「ミレニアルズの生き方」に興味を持った私は、好奇心に突き動かされて中国に何度も赴き、現地のソーシャルメディアを駆使して、大きな変化の渦中にいる当事者へのインタビューを繰り返した。

本書はそんなミレニアルズの考え方、今までとは違う価値観、彼・彼女らが起こしているムーブメント、そこに込められた思いが詰まった1冊になった。

ミレニアルズが生み出しているポップカルチャーを通して、彼・彼女らが「希望」「喜び」「孤独」「苦しみ」など様々な感情を持ちながら生活を送っていることがわかってもらえるはずだ。ぜひ、興味のあるテーマから読み進めて欲しい。

中国のポップカルチャーに興味のある人はもちろん、今後(または今)、ビジネスやカルチャーの現場で中国ミレニアルズと接する人にとって、彼・彼女たちを単なる「消費者」としてだけでなく多面的に理解するうえで、本書を役立ててもらえたら嬉しい。

(※) 1978年から中国で実施された経済政策。海外資本の積極的な導入などが行われ、市場経済への移行が推進された。



第1章「オンラインプラットフォームが生む新しいエンタメ」

■GoogleもTwitterもYouTubeも使用禁止

ご存知の方もいるかと思うが、現代の中国のカルチャーを語るうえで避けて通れないのが、政府によるネット規制の厳しさだ。

・Facebook
・Twitter
・LINE
・Instagram
・YouTube
・Google(もちろんGmailも)

といった、私たちが毎日当たり前に親しんでいるこれらのサービスは全て(通常ルートでは)アクセスNGとなっている。

しかし中国の人たちは規制に慣れっこで、「ダメなら自分たちで作ればいい」とこれまで幾度となくオリジナルのサービスを開発してきた。

例えば、Twitterに代わるのが「Weibo(微博、ウェイボー)」。Twitter同様、フォロワーに対して短文(当初はTwitterと同じ140文字以内という制限があったが、2016年11月以降は正式に文字数制限なし)を投稿するソーシャルメディアだ。2018年のデータでは、Weiboの登録者数は7億人を超えている。Twitterユーザー数が世界で3億人台だから、それを優に超えていることになる。

しかも、この7億人の中には中国人だけでなく、日本の俳優、歌手、アーティストも含まれているのだから驚きだ。例えば、きゃりーぱみゅぱみゅ、flumpool、EXILE、小栗旬、村上隆、などなど。中国のファンに向けて、写真と共に日本語でメッセージを入れたり、覚えたての中国語(間違っていたりするが、それがまた中国のファンにとって可愛かったりするのだろう)を書いたり。2018年12月、木村拓哉がWeiboを始めたことは、中国でも大きな話題を呼んだ(彼のアカウントは2019年11月の時点で、176万人以上のフォロワーがいる)。

中国版LINEと言われているのが「WeChat(微信、ウェイシン)」で、登録アカウント数は億を超える。そのパーセントを占めているのが歳以下のユーザーなので、ミレニアルズの必須ツールだ。

WeChatはオンラインでテキストや写真のやり取りができるだけでなく、光熱費の支払いやお金の振込ができたり、タクシーの呼び出しやホテルの予約、デリバリーの注文など、生活のあらゆる場面で役に立つインフラになっている。名刺代わりにWeChatのアカウントを交換し、仕事のクライアントとのやり取りもしている。ミレニアルズにとって、公私共に欠かせないツールがWeChatなのだ。まさに、日本人のLINEに近い存在だ。

YouTubeに代わる動画サイトは、ここ数年でぐっと増えている。登場した頃、「中国版YouTube」と言われていたのが「Youku(优酷、ヨウク)」。「Y」から始まるネーミングにしているところが憎い!(笑)。2012年には、ライバルの「Tudou(土豆、トゥドウ)」を株式交換により買収し、より強力になった。Youkuは現在、中国最大の通販サイト「AliExpress(阿里巴巴、アリババ)」の子会社が運営している。

動画サイトでユーザー数ナンバー1なのは、「iQIYI(爱奇艺、アイチーイー)だ。2019年6月22日、iQIYIの有料会員数が1億人に達したことはニュースになった。2019年時点で、iQITIの有料会員は24歳以下が圧倒的多数だから、ミレニアルズ、Z世代から支持されるメディアであることは間違いない。そのほか、人気のアプリといえば、日本でもおなじみの「TikTok(抖音、ティックトック)」だ。毎日の利用者は、中国国内だけでも2・5億人を突破したというから、ミレニアルズやZ世代が夢中になっているのがわかる(TikTokのフォロワー数が80万人いるインターネットセレブのミレニアルズを第4章で紹介している)。

なければないでサービスを作り、(人口が多いので)ユーザー数で本家を上まわり、盛り上がってしまうのはなんとも凄まじいパワーである。規制のなかでも中国のミレニアルズやZ世代は、自国のソーシャルメディアをおおいに楽しんでいるのだ。

(この続きは『中国新世代 チャイナ・ニュージェネレーション』でお楽しみください)



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