スモール出版

『スクリプトドクターのプレゼンテーション術』 試し読み



なぜあなたは、プレゼンを難しいと感じてしまうのか?


2017年4月30日(日)14時 下北沢ブックカフェ「本屋 B&B」。
本棚に囲まれた、およそ60名ぶんの座席は満席。
10代から50代まで、男女半々のお客さんが開幕を待ち構えている。
正面には客席と同じ高さにステージがあり、背面にはプロジェクター用のスクリーンがある。  

(参加者の拍手に迎えられ、三宅が登壇する)

三宅   おはようございます。よろしくお願いいたします。本日はこんなに大勢の方にお越しいただきまして、本当にありがとうございます。どうぞ最後まで楽しんでいってください。
さて、何からいきましょうか。……あ、まず皆さんにひとつ質問をしてもいいですか? この中で、TBSラジオの番組『ライムスター宇多丸のウィークエンド・シャッフル』(*1)、通称『タマフル』を聴いたことがない、という方はいらっしゃいますか?

(挙手なし)

分かりました。じゃあ、皆さん『タマフル』のことはご存じということで。今日はそのタマフルの話題がいろいろと出てきます。
もうひとつ、質問いいですか? ぼくのことをご存じないという方はいらっしゃいますか?

(挙手なし)

まぁ、いても挙げにくいですよね、こんな風に本人から訊かれたらね(笑)。
では、皆さんぼくのことはご存じということなので、細かい自己紹介は割愛させていただいて、早速本題に入りたいと思います。今日のテーマは「プレゼンテーション術」ということなんですけど、実はぼく、プレゼンの専門家ではないんです。
ぼくの本業は映画やテレビドラマの脚本を書いたり監督をしたりすることで、他にもスクリプトドクターといって脚本のお医者さん的な仕事もしています。それとかれこれ17〜18年くらいになりますかね、大学や脚本学校で教鞭を執っています。ここ何年かは心理カウンセラーの仕事もしています。……あ、あと『タマフル』的な立ち位置としては、「ブルボンのお菓子愛好家のブルボニスト」とか、「入浴剤ソムリエ」とか、「ぬいぐるみの伝道師・ぬい=グル」とかですね(笑)。
まぁ、それは半分冗談ですが。いずれにしても、映画に関することを中心にいろいろな仕事をしているわけですが、書店に数多あるプレゼンテーション術の書籍を著されている方々のような「ビジネス書の専門家」ではないんですね。

そんなぼくがなぜ、プレゼンテーションに関する本を出版するのか、あるいはそういった内容に則した今回のような講義をやらせていただくのかというのは、実は先ほど申し上げた『タマフル』というラジオ番組と関係があります。
およそ10年近く『タマフル』に出演させていただいているんですが、番組内でのぼくのプレゼンといいますか、おしゃべりをですね、面白いと言ってくださる方がありがたいことにとても多くいらっしゃって、「一体どういう風に考えて、どういう風にしゃべってるんですか?」みたいなことを頻繁に訊かれるんですね。
『タマフル』では「スクリプトドクター特集」に始まって、本業の映画やテレビドラマの作劇術に関する話もさせていただくんですが、他にも趣味の延長線上で「入浴剤特集」だったり「ぬいぐるみ特集」だったりといったものも担当させていただきました。そういう一風変わった内容の話をしてきた中で「どの題材でも外れがないのは何故?」とか「どうしていろんなネタをあんなに論理的に説明できるのか?」みたいなことを、本当にありがたいことなんですが、よくおっしゃっていただくんです。
まぁ、実は自分では、自分のしゃべりをあまり論理的だとは感じていないんですが、少なくとも独特な話題や少し変わった角度から見た「物の解釈」を「分かりやすくお伝えする」ということは、それなりにできているようなんです。   

では、それはどうしてなのか? ということなんですけども、おそらくは普段ぼくが講師として脚本学校や大学などで授業をしていたり、監督として若手の俳優に演技指導をしたり、あるいはスクリプトドクターとしてプロデューサーや脚本家に対してアドバイスをしたり、カウンセラーとしてクライアントと向き合ってきたり、そういった「対面援助」にまつわる仕事をしてきたことと通底している部分があるのかもしれないな、と思うところがありまして。
なので「プレゼンテーション術」と銘打ってはいるんですが、いわゆるビジネスシーンでのプレゼンだけではない、もう少し汎用性のあるものとして、皆さんの生活の中に何かしらフィードバックできる要素や考え方、アプローチなどがあればと、そういう思いがあって、担当させていただくことになりました。
ところで、この中でプレゼンが得意だという方はどのくらいいらっしゃいますか?

(誰も挙手せず、中にはうつむくひとや、周囲の様子をうかがうひとの姿もある)

まぁ……いても挙げられないよ、っていう空気ですよね(笑)。では、プレゼンが難しいと感じている方は、どのくらいいらっしゃいますか?

(全員が挙手する)

分かりました。では、なぜプレゼンは難しいのか、あるいは難しいと感じてしまうのか。まずはそこから考えてみましょう。
ひょっとしてなんですが、プレゼンというのは何か特殊な技術が必要なもの、というイメージが皆さんの中にあるのではないでしょうか?

(頷くひと多数)

なるほど。やっぱりそうなんですよね。ぼくはこの点を、つまり「プレゼンとは難易度の高い特殊技術である」という点について、まずは考え直していかないと、疑ってかからないと、今日の話は始まらないんじゃないかと思ってるんです。つまり、「プレゼンってそもそも何なの?」ということなんですけど。(三宅、ふいに参加者の知人を指名する)稲野さん、プレゼンとは、何でしょうか?

稲野   ……え、プレゼンですか!? 自分の思いを相手に伝えること……?

三宅   プレゼンとは思いを相手に伝える作業ではないかということですね。なるほど。(三宅、今度は舞台袖にいた『タマフル』の構成作家・古川耕(*2)さんを指名し)それでは古川さん、プレゼンとは何なんですかね?

古川   うーん……自分の思いをひとに伝えることですかね(笑)。

(会場に笑いが起こる)

三宅   なるほど。いまのはいわゆる「かぶせ」というやつですね(笑)。さすが構成作家!
いまおふたりは「プレゼンとは、自らの思いを他人に伝えることである」とおっしゃいました。ぼくもそうだと思いますし、実際それがきっと正解なのでしょう。でも、実はいまぼくが一番訊きたかったことは、何だったのかというとですね。稲野さん、いま、ぼくがいきなり質問したことでドキッとしませんでしたか?

稲野   しました。

三宅   古川さん、ドキッとしませんでしたか?

古川   大変しました。

三宅   そうですよね。ごめんなさい、おふたりとも。いきなり指名してしまって。でも稲野さんにしても古川さんにしても、ぼくとは面識がある。普段から付き合いがある。この場だけの関係ではなくて、一緒にご飯を食べに行ったりもするわけですよね? 稲野さん、ぼくと普段話しているときにはドキッとしますか?

稲野   しないです。

三宅   古川さんは?

古川   しません。

三宅   しないですよね。なのに、いまはドキッとしてしまった……。さぁ、これは一体何だろうということなんです。普段だと平気なのに、いまこの場の、この状況下で突然指名されると、なぜドキッとしてしまうのか? だって指名したのは彼らにとって知り合いである、ぼくなんですよ? ぼくのことを今日初めてご覧になるという方も会場にはいらっしゃると思うんですけど、少なくともいまのおふたりはそうじゃない。だったらドキッとする必要なんてないはずなんです。でも、してしまう。さて、これは一体何なんでしょう? なぜこんなことが起きてしまうんでしょうか?
実はここに、プレゼンというものを多くのひとが「難しいと感じてしまう」、あるいは、プレゼンとは「特殊技術で難しいものである、とされている」誤解の原因や秘密が隠されているのではないかと思うんです。実際、いまのおふたりは、ぼくが指名したことで、急遽プレゼンを強いられたような、そんな感覚に陥ってしまったんじゃないでしょうか?

実は、プレゼンが苦手だと感じている方の多くが、「プレゼンという場」に立たされることで、目の前にいる相手に、つまり「聴き手」に意識を向けるのではなく、「伝え手」であるべき自分に意識を向けてしまうのではないか。自分が置かれたシチュエーションや状況のせいで平常心を失い、「失敗したらどうしよう」「間違ったことを言ってしまわないだろうか」あるいは「恥をかきたくない」といった具合に、反射的な思考に陥ってしまうのではないか。
つまりは「自意識」が発動してしまうのではないかと思うんです。

パワーポイントの図面はこう描くべきだ、スピーチの内容はこれこれこういう順番で構成すべきだ、あるいは聴き手の集中力を上げるために、話し手は自分の手や腕の角度を何十度に保つべきだ。そういったマニュアルは誰でもすぐにまねができますし、即効性があって便利だとは思います。しかし、先ほど指名したおふたりが抱えたような緊張感が、プレゼンという「場」の影響で多くのひとの心の中に芽生えてしまうのだとしたら、まずはその問題をこそ解消しなければ、本質的にはプレゼンテーション術は向上しないんじゃないか、プレゼンへの苦手意識は克服できないんじゃないか、と個人的には考えています。

そこで今日はこの辺りの話題を、つまりプレゼンの「カタチ」の部分ではなく「キモチ」の部分についての話題を中心に講義を進めていきたいと思っています。もちろん『タマフル』の話題もたくさん出てきますが、もっと根源的な、皆さんにとって、日々の生活の中に取り入れられるような、何らかの実りある時間にできたらいいな、と願っています。

それでは「スクリプトドクターのプレゼンテーション術」。早速、スタートします!

【注】
*1……『ライムスター宇多丸のウィークエンド・シャッフル』 2007年4月7日に放送が始まったTBSラジオの番組。毎週土曜日の22時より生放送中。通称『タマフル』(「ライムスター宇多丸」の「タマ」と「ウィークエンド・シャッフル」の「フル」を繋げた略称)。パーソナリティの宇多丸は、1989年にヒップホップグループ「RHYMESTER」を結成し、日本語ラップの黎明期よりシーンを牽引するラッパー。映画評論やアイドルソング評論、ラジオパーソナリティ、TVコメンテーター、文筆家などとしても幅広く活躍中。
*2……古川耕 ライター、放送作家。『ライムスター宇多丸のウィークエンド・シャッフル』『ジェーン・スー 生活は踊る』(共にTBSラジオ)などの構成作家を務める他、アニメやコミック関連書籍の制作、文房具ライターとしても活躍。本書のシリーズ「DIALOGUE BOOKS」の企画・編集も担当している。




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